2005 年 8 月 20 日

「鎌倉の宝物」 (江ノ電沿線新聞)

秋田県から鎌倉に移築した酒蔵に住んでいると本紙6月号に書いたが、最近は建物が目立つせいか様々な方が訪ねてくる。見学希望をはじめCM撮影の依頼、ラ イブ会場に使わせて欲しいというレコード会社など色々である。そんな中で最近嬉しかったのはある日の夕方、初老のご婦人が訪れた時だ。「この建物が建って 本当に嬉しい。それだけを一言伝えたかった。」とおっしゃる。せっかくなのでもう少しお話を聞くと「30年以上も鎌倉に住んでいるが今の鎌倉はどんどん昔 の風景が消えていく。素敵なお宅が突然解体されて更地になったかと思うと、駐車場になったりマンションになったり。そんな中で古い情緒ある建物が建ったこ とが嬉しかった。」その言葉はこの蔵の移築再生にかかわった者として心に響くものだった。

民家再生:2階の窓古 い建物であってもお寺や神社などの文化財は残るが、住宅はなかなか残らない。その原因の多くは相続にあると聞く。相続で土地を分割したり売却する時にそこ にある住宅が取り壊されてしまうのである。財産をどう処分しようと自由な個人、一方で町の景観を保っていきたいと思う市民。その溝は深くここ鎌倉でも様々 な保存運動があったが両者が歩み寄った例は少ないようだ。

町にとって大事な文化財は神社仏閣だけではなく住宅をはじめ様々な建物や橋などの工作物も含まれるという認識がようやく我が国でも広がってきた。一昨年施 行された「景観法」という法律や9年前に施行された「登録文化財」という国の制度もそれをバックアップしている。登録文化財とは50年以上経過した建物で 町にとって一定の意味があるものについて個人が登録できるという制度である。国が指定する文化財に対してこちらは自己申告の文化財とでも言えよう。

国指定と異なって、登録されても金銭的な補助はほとんど無いが、そのかわり内部をどう使おうが自由、外観を変える時だけ届ければよいというものだ。ただし一昨年から相続税の減免という大きなメリットがこの制度に追加されて全国で登録件数が増加しているようだ。

鎌倉市は世界遺産登録を目指しているようだが、一個の宝物が風景を作るのではなく一軒の住宅や一本の樹木、一筋の小川も市民にとっては重要な宝物であり、それらを含んだ鎌倉の景観を世界に誇れるようになりたいと思う昨今である。

カテゴリー: 所長日記 — yutaka @ 12:11 AM

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