初めて沖縄に行った。羽田を飛び立つとすぐ海の上。エメラルドグリーンのサンゴ礁が見えたと思ったらもう機体は降下を始めている。あっけないほどの二時間半だ。
那覇空港に降り立つとさすがに南国の太陽が強烈だ。空港に直結するモノレールに乗って首里城へ向かう。最近開通したというモノレールは窓も低く座席からの 眺めがとても良い。運転手は“かりゆしウエアー”(アロハのようなカラフルなシャツ)姿の女性。ワンマンカーなので彼女はドアの開閉、駅名案内、運転とな かなか忙しい。
モノレールは地上5階くらいの高さを走るので町の風景が手にとるように分かる。那覇市内の中心部はビル街だがそのビルの谷間に赤瓦の民家があったりする。 中心部を過ぎてモノレールは坂道を上り始める。斜面にへばりつくようにコンクリート住宅が並ぶ様は壮観だ。
ふと変な物体が目に入る。屋根の上に必ず水槽が乗っているのだ。ビルやマンションの屋根に高架水槽が乗るのは当たり前だがここでは平屋の住宅にも水槽が乗っている。これはどうしたわけか。気になり始めるとそこばかりに目が行ってしまう。
最 も多いのがステンレスのドラム缶風の水槽そのままというタイプ。その次に多いのがそのステンレス水槽をコンクリートの箱の中に入れたタイプだ。箱のデザイ ンは千差万別だが、穴明きブロック型、屋根付き型に大別できる。箱を一本足のような柱で支えるタイプもある。なぜこれほど水槽デザインに執着するのか。も しかするとこの水槽に沖縄の風土の根幹が隠されているのかも知れない、などと勝手に想像するのである。
謎はすぐに解けた。仕事で水道局へ行って「どうして戸建住宅にも水槽があるのですか?」と訪ねると「ここ数年は無いのですが、昔はしょっちゅう断水したの です。それが記憶にあって水を確保する為に水槽を置くのですよ。別に水道局で強制しているのでは無いのです。」やはりここは本州から見れば絶海の離島なの だとつくづく感じた。水は生活の生命線。それが無くなるという心のトラウマは一朝一夕では消えないのだ。
沖 縄本島から舟で20分という離れ島へ渡ってますます沖縄水事情を実感した。民家の横には大きな水槽が必ず設置してあるのだ。屋根からの水を貯水して断水に 備えているのである。中でもコンクリート管を積んだ天水桶が庭にドンと鎮座している民家は中でも圧巻であった。屋根の谷の雨水を見事に貯めこんでいるの だ。
風土がもたらすデザインがあるとすれば沖縄の水槽は正にそれである。その水槽デザインにあれほどまでに力を入れる建築家。生命を守る水への賛歌を屋根の上で高らかに歌っている。彼らに乾杯。